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『ポケットにライ麦を』

 ミステリーの女王、アガサ・クリスティーの作品です。今回もネタバレ気味なので要注意。まずは出だしから・・・

 いつもと変わらない投資信託会社の事務所の朝。秘書の入れたお茶を飲んだ社長のフォテスキュー氏は、苦しみだしたすえに息絶えてしまう。殺害に使われたのは遅延性の毒タキシン、犯行現場(毒が盛られた)と目されるフォテスキュー氏の御屋敷「水松荘(いちいそう)」へ向かったニール警部を待ち受けていたのは、第二、第三の殺人であった・・・。

 ページにして10ページもいかないうちに事件発生という展開の速さ。犯人は、お茶を運んだミス・サマーズか、オールド・ミスの秘書主任ミス・グリフィス、それとも社長付の美人秘書ミス・グローブナーなのか、と読者を一気に探偵モードに突入させます。それでいて「遅延性の毒」で思いっきり肩透かしを喰らわすのは、「毒殺の女王」とも呼ばれているクリスティーにとってはお手の物なのでしょう。

 本作品の特徴とされるのが、狂気か欺瞞か、マザー・グースの唄を模したかのような特異な犯行。このマザーグースの唄を使った作品を、クリスティーは得意としていて、中でも『そして誰もいなくなった』は有名です。そもそも、マザー・グースというのは、主にイギリスで古くから伝承されてきた数々の童歌のことで、「ロンドン橋」のように日本語に訳されて知られているものも多い。それでも、小さい頃からマザー・グースに馴染んでいる英語圏の読者と、他国の人では作品から受ける印象が違ってくるかもしれませんね。

 事件の解決にあたるのはミス・ジェーン・マープルです。クリスティーが生み出した、もう一人の名探偵エルキュール・ポアロが、ヘイスティングというワトソン役を持つのに対して、マープルには特定のワトソン役がいません。今回は、ニール警部が臨時のワトソン役ともいえる活躍!?をします。役の名に恥じず、事件を解決出来ずに右往左往したあげく、マープルに犯人の名を聞かれても答えられなくて「ほとんど泣き出しそう」とまで著者に書かれる始末です。

 ニール警部のようにはならないという自信がある方は、是非、クリスティーのトリックに挑んでみてください。

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