書籍・雑誌

『日本の安全保障』

 迷走に迷走を重ねる普天間の米軍基地移設問題、昨年から延々と政府による再検討が続いているのに未だ出口が見えてきません。この間、グアムや硫黄島など、海外や国内の候補地が浮かんでは消えていきました。最近の論調では、県内移設案が有力になっているように思えます。

 本書の発刊は1997年。当時、日米ガイドライン見直しが議論され、辺古野沖移設案もこの年に出されました。著者は江畑謙介。言わずと知れた軍事評論家です。

 第一章は「冷戦後の米世界戦略」、最初から意外な展開です。門外漢が日本の安全保障と聞くと、まずは日米安保や自衛隊云々を思い浮かべてしまう。しかし冷戦後米国だけが超大国として残った現在、著者の弁によれば「いかなる国においてもその安全保障を考え論じる際には、まず米国の世界戦略に対する客観的理解が不可欠」とあります。安全保障は相手があってのこと、自国の価値観だけを振り回す一人相撲は意味をなさないともあります。

 第二章では日本の生命線といえる「タンカー航路の危険」を、第三章で「東アジアにおける三つの不安定要因」として、不安定な半島、中国の軍拡、ロシアの太平洋進出を取り上げ、その後の章でやっと日米安保関連について述べています。

 著者は、ひたすら客観的事実を重ねて解説するというスタイルを取っています。また、一般には馴染みの薄い軍事の事柄も詳しく説明しているのでわかりやすい。丁度、「良い教科書」みたいな解説書です。

 本書によって、日米安保の周辺国への影響や、基地移転の際のインフラ問題、日本そして沖縄の戦略地理的価値を教えられると、民主党や社民党が唱えていた海外移転が軍事的な視点を欠いたものに見えてきます。もちろん軍事的な視点だけで普天間の問題が解決することはないでしょう。沖縄県民の負担軽減や環境、経済といった視点も大切です。しかし、軍事基地の移転問題が軍事的な視点無しに解決するとも到底思えません。

 鳩山総理が決めた五月末の期限まで残り二ヶ月弱、これだけ軍事が絡んだ問題がクローズアップされているときに、著者の軍事視点の解説を聞けないことは本当に残念です。

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『ポケットにライ麦を』

 ミステリーの女王、アガサ・クリスティーの作品です。今回もネタバレ気味なので要注意。まずは出だしから・・・

 いつもと変わらない投資信託会社の事務所の朝。秘書の入れたお茶を飲んだ社長のフォテスキュー氏は、苦しみだしたすえに息絶えてしまう。殺害に使われたのは遅延性の毒タキシン、犯行現場(毒が盛られた)と目されるフォテスキュー氏の御屋敷「水松荘(いちいそう)」へ向かったニール警部を待ち受けていたのは、第二、第三の殺人であった・・・。

 ページにして10ページもいかないうちに事件発生という展開の速さ。犯人は、お茶を運んだミス・サマーズか、オールド・ミスの秘書主任ミス・グリフィス、それとも社長付の美人秘書ミス・グローブナーなのか、と読者を一気に探偵モードに突入させます。それでいて「遅延性の毒」で思いっきり肩透かしを喰らわすのは、「毒殺の女王」とも呼ばれているクリスティーにとってはお手の物なのでしょう。

 本作品の特徴とされるのが、狂気か欺瞞か、マザー・グースの唄を模したかのような特異な犯行。このマザーグースの唄を使った作品を、クリスティーは得意としていて、中でも『そして誰もいなくなった』は有名です。そもそも、マザー・グースというのは、主にイギリスで古くから伝承されてきた数々の童歌のことで、「ロンドン橋」のように日本語に訳されて知られているものも多い。それでも、小さい頃からマザー・グースに馴染んでいる英語圏の読者と、他国の人では作品から受ける印象が違ってくるかもしれませんね。

 事件の解決にあたるのはミス・ジェーン・マープルです。クリスティーが生み出した、もう一人の名探偵エルキュール・ポアロが、ヘイスティングというワトソン役を持つのに対して、マープルには特定のワトソン役がいません。今回は、ニール警部が臨時のワトソン役ともいえる活躍!?をします。役の名に恥じず、事件を解決出来ずに右往左往したあげく、マープルに犯人の名を聞かれても答えられなくて「ほとんど泣き出しそう」とまで著者に書かれる始末です。

 ニール警部のようにはならないという自信がある方は、是非、クリスティーのトリックに挑んでみてください。

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『時速1000字で書く技術』

 タイトルの「時速1000字」という部分に惹かれて読んだ本です。亀とまでは言わないにせよ、1000字弱しかないこの記事も一時間以上掛けて書いている遅筆なので、スピードアップのヒントでも得られればと思いました。

 著者は河合塾講師で文章アドバイザーでもある後藤禎典。

 「時速1000字」といっても驚くようなテクニックを使うわけではありません。文章作成の四つの段階、「考える」、「メモを作る」、「文章化する」、「推敲する」の各段階において効率よく作業して時間を短縮する、著者の言葉を借りるなら「プロセスの効率化」を行うことにより「時速1000字」を達成しようというものです。書くべきこと、考えるべきことを最初の段階で明確(「書くためのレシピ」というものを作る)にしておき無駄を省く。必要なことだけをするという方法で「時速1000字」に迫っていきます。最終章では、依頼されたコラムの作成過程を追いながら「時速1000字」で書く技術の見本も示しています。

 ある意味、文章作成の正攻法の発展型。良く言えば馴染みやすく、万人に受け入れやすい。悪く言いえば、この程度のことならすでに、全部では無いにせよ、やっているよという人も多いのでは。

 惜しい、というか気になるのは、第1部第2章の「わかりやすく書く技術を磨こう」と第3章の「正確に書く技術を磨こう」。執筆時間を短縮するためには基礎的な文法力も必要だということで設けられているこの二つの章はあまりに内容が陳腐です。基礎的な文法力について書けば、どうしてもステレオタイプなってしまうのかもしれません。しかし、「時速1000字」を謳う以上、その中にもほんの一片でもよいから「時速1000字」のエッセンスが盛り込まれていたほうがよかったのではないでしょうか。この二つの章は、別のタイトル、例えば「楽しい文章の書き方」とか「簡単らくらく文章術」という本があったとして、一字一句変えることなく、その本の一部となりうると思います。

 現代社会において、速く書き上げる要求が強まっているという著者の視点には同感できます。だからこそ、最初から最後まで「時速1000字」に強く焦点を当てているべきではなかったかな。文章読本が本棚に並んでいない人には薦められるとして、山と積み上げている人だと読んでも得るものは少ないかも、そんな一冊です。

時速1000字で書く技術 Book 時速1000字で書く技術

著者:後藤 禎典
販売元:すばる舎
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『42.195キロへの挑戦』

 先日開催された東京国際女子マラソンで、アテナ五輪金メダリストの野口みずきが大会新記録で優勝しました。北京五輪代表入りは確実ということなので、是非連覇して貰いたいものです。現在は女子の強さが目立っていますが、以前マラソンと言えば男子だった。瀬古、中山、宗兄弟たちが世界中の大会で活躍し、五輪の金メダルがないのは不思議なぐらい。

 彼らの活躍もあり、市民ランナーが増えマラソンブームも起きていた頃に出版(1984年)されたもの。著者は、松島駿二郎・生和寛。

 副題は「あなたも一年でフルマラソンが走れる!!」。オリンピックや世界選手権と同じ42.195kmを走りきれる体力を、一年間で身につけるプログラムを紹介しています。それも楽しみながら。もちろん対象は一般の市民ランナーです。

 トレーニング方法は、毎週、少しずつ走る時間を長くしていき、一年後にフルマラソンを完走できる力をつけるというものです。一週間のうち日曜日は他より長時間、水曜日だけはお休み。無理なく気楽にがモットーで、初日のノルマは速足でたった5分間歩くだけ。近くの、コンビニへ行くより短い時間です。

 第1週は、速足のみ。第5週でも最大18分しか走りません。第22週の日曜日でやっと1時間。第42週で2時間、第49週でついに最長時間となる3時間を走ります。第52週が終わる頃にはフルマラソンを走りきれるようになっているというぐあい。

 実際にやってみたのですが、最初のうちは楽々でトレーニングなのかなんだかわからないくらい。1ヶ月経っても30分も走らないから、物足りなくなります。順調に走る時間を延ばしていき、半年も経つと1時間くらい苦も無くスイスイ。しかし、32週目で挫折。走る時間が長くなったからではなく、真夏の暑さに負けた。夕方でも気温が高かったので、一度中断して秋になったら再開しよう、と思ってそのままに。

 それでも1時間半くらいなら息切れしないで走れるようになりました。

 これからフルマラソンにチャレンジしたいと思っている人にお薦めなのですが、惜しいことに絶版です。十分需要はあると思うのですがね。

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『点と線』

 テレビ朝日の開局50周年記念企画として初ドラマ化され、今月の24、25日に二夜連続で放送される松本清張の大ベストセラーです。1957年から1958年にかけ雑誌に連載され、同年に出版ならび映画化されました。新書版は1960年7月発行で9ヶ月後の1961年4月で14版になっていることからも、当時かなりの一大ブームを巻き起こしたことがわかります。

 あらすじは・・・

 福岡県の海岸で男女の死体が発見され、状況から無理心中と思われます。しかし、とある物証から一片の疑念を抱いた福岡署の鳥飼刑事は、単独で捜査を始めるのであった。

 有名な東京駅の4分間トリック、日本中を駆け巡る容疑者、時刻表を使ったアリバイと見所はたくさんあります。とはいえ、長嶋さんが巨人入団や東京タワー竣工の頃に書かれたもの。半世紀前の作品がいまだに表舞台に立てるのは、すごいですよね。

 ほんの数年で絶版になってしまう本もあれば、何世紀にも渡って読み継がれていくものもあります。推理小説で言えば、エラリー・クイーン、アガサ・クリスティ、江戸川乱歩、そして松本清張。共通して、トリックの面白さだけではなく、時代を越えて訴求しうる人間のドラマを持っているのではないかな。

 ショウペンハウエルは、その著書『読書について』(1851)の中で、粗製濫造される悪書などに無駄な時間を使わずに良書、とくに古典を読めと訴えています。それはそれで正しいと思う。でも、将来古典になるような現代の作品にも出会ってみたいものです。

 ドラマで主役の鳥飼刑事を演じるのはビートたけし。地方のベテラン刑事をどう演じるかも楽しみ。

点と線―長編推理小説 (カッパ・ノベルス (11-4)) Book 点と線―長編推理小説 (カッパ・ノベルス (11-4))

著者:松本 清張
販売元:光文社
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『夢見る惑星フォルゴ-ン』

 デュマレスト・サーガ第二弾(著者はE・C・タブ)。故郷の惑星「地球」を求め宇宙をさすらい、今は空に浮遊獣が飛び回る惑星カイルに滞在中です。前作から、実に7つ目の惑星。

 今回は、シリーズの重要な要素となっている宇宙船の設定を紹介します。他のSF小説に登場する宇宙船と違い、この世界の宇宙船は、超光速で飛べても「ワープ」はできません。銀河の端から端へひとっ飛びなどという芸当は不可能、惑星間の往来さえ月や年単位の時間が必要とされます。

 長すぎる航行時間を減らす方法は2つ。金持ちは、高価な「低速代謝薬」を飲み、動きと老化と体感時間を数十分の一にして旅を楽しむ。貧乏人は、90%死んだ冷凍状態で冬眠容器の中へ。安いだけあって15%の死亡率というリスク付き。普通の時間を過ごしているのは原則として船員だけ。

 冷凍状態で移動、さらに超光速で飛ぶ宇宙船。デュマレストが地球を10歳で旅立ってから、実時間では何世紀も過ぎ去っています。

 時間を操作し行動を制限する上手い設定。これで「地球」捜しの困難さを増すことに成功しています。

 さて、惑星カイルでは見世物小屋で働いていたデュマレスト。仕事が一段落したときに、御指名で依頼が舞い込んできます。請け負ったのは、名家の令嬢デライを、その故郷である惑星ハイヴまで護衛すること。実は、デライは生まれながらの超能力者。惑星ハイヴに着いてみれば、次期家長の座を巡る抗争の真っ最中・・・。

 揉め事には首を突っ込みません。金稼ぎでドデカイ蜂さんと戦ったりします。でも、結局は権力闘争に巻き込まれることに・・・。デライには惚れられるし・・・。

 ここからネタバレ注意。超能力ゆえ孤独を味わってきたデライとデュマレストは、ちょいといい関係になります。しかし、このシリーズには「愛した女は死んでいく」という恐ろしいジンクスが。ま、どのみち渡り者は一人になるのさ。

夢見る惑星フォルゴーン<デュマレスト・サーガ2> Book 夢見る惑星フォルゴーン <デュマレスト・サーガ2>

著者:E.C. タブ
販売元:東京創元社
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『「描写文」の訓練で力をつける』

 描写文の書き方を、小学生に教授する方法についての本です。自分の文章を見直しがてら読みました。同著者による言語技術実践シリーズの一冊。

 著者の三森ゆりかは、小学生から高校生に、言語技術教育を行っている「つくば言語技術教室」主宰です。教室では、ドイツの言語技術教育を参考にして作られたカリキュラムが使われていて、本書はそれが元になっています。

 描写文を、情景を客観的に伝える「科学的記述文」と、書き手の心情をも伝える「文学的記述文」に分けて考えていて、本書では全ての描写文の基礎とされる「科学的記述文」を取り上げています。文学的な文はほとんど扱っていません。目指すは、対象を客観的かつ正確に表現し、読む人が目に見えるように伝えられる文章です。

 教材は「人物描写」「動物の描写」「物の描写」「絵の描写」「描写の技術」に分けられ、それぞれ学年に応じて難度を上げています。描写文から情報を抜き出させたり、情報を与え描写文を書かせたりしながら、順を追って描写の技術を教えていく。最後には一枚の「絵」を描写させるまでに発展します。

 教えている描写の技術自体は別に変わったものではありません。詳細に観察し、情報の重要度を吟味し、別の物と対比して、方向軸はぶらさない。全て描写の基本的な事柄であり、その辺の文章読本にも書いてあるようなこと。

 でも、これだけのことを小学生の段階で習得させることが出来たら、すごいですよね。

 小学生の頃、学校の作文指導で描写の訓練を受けた憶えはまったくありません。そもそも、書いた文書の量もそれほど多くなかった。記憶に残っているのは、長文だと、読書感想文や遠足の次の日に書かされた感想くらい。おかげで後々苦労することに。ほんと、これくらいのことは教えておいて欲しかったよ。

Book 「描写文」の訓練で力をつける (言語技術実践シリーズ)

著者:三森 ゆりか
販売元:明治図書出版
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『銀河帝国の興亡 1』

 ファウンデーション・シリーズは、銀河帝国の滅亡から新帝国勃興までを壮大なスケールで描き出した、アイザック・アシモフのSF一大叙事詩です。本書はその記念すべき第一作で、原題は『FOUNDATION』(1951年出版)。題名が、創元推理文庫では『銀河帝国の興亡 1』(絶版)、現在のハヤカワ文庫では『ファウンデーション-銀河帝国興亡史』となっています。

 まずは、本書のさわりを・・・

 一万二千年もの長きに渡り全宇宙を支配してきた大銀河帝国。二千万五百万の惑星を統治下に治め、人口は1000兆人を越え繁栄の真っ只中。しかし、崩壊の序曲はすぐそこまで忍び寄っていた。心理歴史学による探求の結果、帝国はあと五世紀以内に瓦解するとの結論を得た数学者のハリ・セルダンは、とある計画を実行に移すのであった。

 心理歴史学というのは、個人の動きは予測できなくとも、大集団の行動・未来は統計的に予想できる学問、という設定です。帝国の崩壊は不可避と見切ったセルダンは、崩壊後の暗黒時代を3万年から1千年に短縮するために、人類の叡智・知識を全て集めるファウンデーションの設立に取り掛かります。

 セルダンの立てた計画に沿って、何世紀にも渡る物語なので、話が進むに従って登場人物もどんどん変わっていく。セルダン自身、生きているのは最初だけで、その後は時々ホログラムでお告げを告げます。

 登場するのは人類のみ。肌もあらわな異星の美女や、感情移入してしまうヒーロー、奇怪な面妖の宇宙人は出て来ません。そのかわり、権謀術数を張り巡らせる政治家、計画実行のために暗躍する集団、権力欲に塗れた者や、宗教関係、etc・・・。

 銀河を跨ぐ広大な世界に、何世紀にも渡る悠久の歴史、このスケールの大きさが魅力のシリーズです。そして、時代をおいて降りかかるファウンデーションの危機に対する各世代の努力が新帝国の歴史を作り上げて行く面白さ。

 シリーズは全7冊。うち本書を含む1950年代に出版された3冊が初期三部作と呼ばれています。4冊目以降は、1980年代に入ってからの出版。晩秋の夜長にはピッタリの長編SF叙事詩です。

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『初期捜査の実際』

 時津風部屋で新弟子が死亡した問題について、先月の終わり愛知県警が初動捜査時の判断ミスを認める見解を発表しました。過去にも、坂本弁護士一家殺害事件のように初動捜査のミスが大事件に発展したり、迷宮入りになったこともあります。初動捜査って大切なんですね。それで思い出した一冊。

 40年を越える警察人生を送り、警察大学校の講師も勤めた綱川政雄・元警視正が、初期捜査における基本的な捜査方法や注意事項、着意点などを解説しています。出版社は、警察関連分野を専門にしている立花書房です。

 章立ては、「初期捜査とは何か」「現場鑑識」「現場保存」「現場周辺の捜査」の4章。一般向けの教養書では無く、後進への捜査技術の伝授を念頭に書かれたものなので、叙述は教科書みたいに堅苦しく、中身はかなり濃い。例えば、「現場付近の聞込み」だけで、聞き込む内容からその相手、要領まで16ページに渡り詳細に解説しています。一部引用してみると、

 深夜の事件で現場付近に通行人や見物人が居ない場合は、犯行前後に犯人らしい者を目撃した相手を捜すということになる。深夜営業の飲食店とか屋台店などは、犯行の前後に犯人が立寄る場合もあるだろうし、そこの客が犯人を目撃する機会もある。また、早朝の通行人、駅員・・・

 極めて実戦的です。さすが長年に渡り犯罪者を追い続けていただけあって、説得力も違う。ドラマや映画とは別の世界を垣間見れ、読み進めていくうちに気分は犯人を捜す警察官に。

 ただ、20年以上前(1984年)の出版のため古さを感じさせるところもあります。当時、存在しなかったNシステムをはじめ新しい機器については載っていません。

 ミステリ小説や警察小説もいいですが、この手の硬い本で現実の犯罪捜査を知るのもおもしろいものですよ。

 *「立花書房ホームページ

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『毒物雑学事典』

 ミステリの世界において毒物は重要な小道具として登場します。なかでも、ミステリの女王アガサ・クリスティーは薬剤師として働いていた経験とその知識を生かし、作品のなかで毒物を多用しています。『ポケットにライ麦を』ではタキシンと青酸カリ、『三幕の殺人』のニコチン、『火曜クラブ』の砒素と使われた毒物もさまざま。

 現実の世界でも、戦後の混乱期を揺るがした帝銀事件をはじめとして、多くの事件で毒物は使われました。

 毒物が問題になるのは、なにも犯罪に限ったことではありません。異なるタイプの洗剤を混ぜたばかりに猛毒の塩素ガスが発生してしまった風呂場での事故や、有機水銀が引き起こした水俣病。蜂に刺されて痛い思いをするのも毒によるものです。かように世の中は毒物で満ち溢れているのです。怖い怖い。

 本書は、そんな毒物のあれこれを90の話で説明しているブルーバックス・シリーズの一冊(1984年)。1話あたり見開き2ページと、短くまとまっていて気軽に読めます。著者は、元・信州大学教授の大木幸介。

 主に毒物の作用、つまり人体のどの部分に何故その毒が影響を与えるのかについて解説しています。他に、各種毒物の発見された歴史や毒物による事件、薬として使われている毒など興味深い雑多な知見も。

 毒の作用といっても一般向けなので、難しい化学式や数式の羅列はありません。例えばミツバチの毒の作用について書かれたところを引用してみると

 ミツバチの小型タンパク質毒をみると、メリチン、アパミン、MCDペプチドなどが主要成分である。
 メリチンには強い溶血作用がある。アパミンは中枢神経をまひさせる毒だ。MCDペプチドには、マスト細胞という特別な白血球を破壊するため・・・

 と、なっています。基礎知識を得るには十分でしょう。

 もともとはミステリの延長線上で読みました。毒物について知っておけば推理に役立つかと。しかし、世のミステリはそれほど甘くはなかった。毒物の知識が少々増えた程度では、真犯人を発見するまではなかなか・・・。名探偵への道は遠い。

毒物雑学事典―ヘビ毒から発ガン物質まで (ブルーバックス (B‐569)) Book 毒物雑学事典―ヘビ毒から発ガン物質まで (ブルーバックス (B‐569))

著者:大木 幸介
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

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